温度センサーは、私たちの身の回りで最も広く使われているセンサーの一つです。エアコンや冷蔵庫、車のエンジン管理システムなど、温度センサーなしでは成り立たない製品が数多くあります。本記事では、温度センサーの基本的な動作原理や種類、そして選定や活用のポイントについて、詳しく解説します。
はじめに
温度センサーは、環境や物体の温度を正確に測定するために設計されたセンサーです。日常生活から産業機器まで、温度制御が必要なあらゆる場面で利用されており、その精度と信頼性は多くの技術分野で不可欠です。ここでは、温度センサーの基本的な仕組みと種類、そしてどのように選定すればよいかをわかりやすく説明します。
温度センサーの基礎知識
温度センサーとは
温度センサーは、物理的な温度変化を電気信号に変換して出力する装置です。これにより、システムは温度の変化に応じて制御や判断を行うことができます。温度センサーは精度や応答速度が重要で、使用する環境や目的に応じて最適なものを選ぶ必要があります。
温度センサーの仕組み
温度センサーは基本的に、温度変化によって抵抗や電圧が変化する性質を利用して温度を計測します。以下に代表的な動作原理を示します。(ここは第一回でも触れました)
センサータイプ | 動作原理 |
---|---|
サーミスタ | 温度によって抵抗値が大きく変化(主に半導体を使う) |
熱電対 | 異なる金属の接点に発生する熱起電力を利用 |
RTD(Resistance Temperature Detector) | 温度によって抵抗値が変化することを利用(主に金属を使う) |
温度センサーの種類と特徴
温度センサーには、いくつかの主要な種類があり、それぞれ異なる特性と用途があります。ここでは、代表的な3つの温度センサーについて詳しく説明します。
サーミスタ
サーミスタは、温度によって抵抗値が大きく変化するセラミック半導体を用いたセンサーです。サーミスタは応答速度が速く、小型で安価なため、多くの家庭用機器や医療機器などで使用されます。周辺の電気回路も単純で済むため、安価な製品によく見られます。
PTC(Positive Temperature Coefficient)タイプとNTC(Negative Temperature Coefficient)の2タイプがあり、前者は温度が上がると抵抗値も上がるタイプ、後者は温度が上がると抵抗値は下がるタイプです。
引用元:https://www.shibaura-e.co.jp/products/what_thermistor/
図のように、PTCもNTCも特性は非線形です。それゆえに温度を算出するのは単純ではなく、ソフトウェアで補正が必要になります。一般的には「B定数」と呼ばれる定数を用いた計算式があるので、それを使います。
PTCはある温度で急激な特性の変化が見られ、クセがあります。急激に特性が変化する温度を「キュリー点」といいます。
反してNTCにはそういった特性の変化はありません。そのため、温度測定用途にはNTCがよく使われます。ただし、抵抗の変化が緩やかな領域に限定するため、測定できる温度範囲は狭いです。
PTCはキュリー点があることを逆に利用して過電流保護やヒーター等の過熱保護のようなセーフティに使われます。PTCの中でも特にセーフティに特化したものは、「ポリスイッチ」「セミヒューズ」と呼ばれることもあります。
熱電対
熱電対は、異なる2種類の金属が接触する部分で発生する熱起電力(ゼーベック効果)1を利用して温度を測定します。この接合部分を「測温接点」といいます。
熱電対は広範囲な温度測定が可能で、工業用途など高温環境下での測定に適しています。
2種類の金属に何を使うかで特性が変わりますが、何でも使うわけではなくJIS規格で決められています。(JIS C 1602:下表)
種類記号 | 構成材料(+側) | 構成材料(-側) |
---|---|---|
B | 白金ロジウム合金(ロジウム30%) | 白金ロジウム合金(ロジウム6%) |
R | 白金ロジウム合金(ロジウム13%) | 白金 |
S | 白金ロジウム合金(ロジウム10%) | 白金 |
N | ニッケル、クロム及びシリコンを主とした合金 | ニッケル及びシリコンを主とした合金 |
K | ニッケル及びクロムを主とした合金 | ニッケル及びアルミニウムを主とした合金 |
E | ニッケル及びクロムを主とした合金 | 銅及びニッケルを主とした合金 |
J | 鉄 | 銅及びニッケルを主とした合金 |
T | 銅 | 銅及びニッケルを主とした合金 |
C | タングステン・レニウム合金(レニウム5%) | タングステン・レニウム合金(レニウム26%) |
引用元:https://www.jisc.go.jp/index.html
例えば種類記号「B」の熱電対であれば「B熱電対」と呼びます。B,R,S熱電対は貴金属熱電対とも呼ばれ、高価です。
K熱電対は-200℃~1000℃まで使える耐熱性と耐腐食性を備えながら安価で、工業用途で最も普及しています。E熱電対は1℃変化したときの起電力の変化が大きいため、高精度用途で普及しています。
それぞれの特性は図のとおりです。
引用元:https://www.macnica.co.jp/business/semiconductor/articles/texas_instruments/130361/
どのタイプでも、0℃のときに0mVを通っていることがわかると思います。これは「冷接点補償」という補正を加えているためです。
補償については少々難しいので、ここでは説明を省略します。この補償のややこしさは欠点といえるでしょう。
RTD(測温抵抗体)
RTDは、金属の電気抵抗が温度に応じて変化する特性を利用したセンサーです。特に白金を使用したRTDは高い精度と安定性を持ち、研究施設や工業設備で使用されることが多いです。(「Pt100」というものが代表的です)
「キュリー点のないPTCサーミスタ」と考えればわかりやすいかもしれません。(材料が違いますが)
特性はほぼ線形ですが、抵抗の変化が小さいためちょっとした影響を受けやすく、周辺の電気回路が複雑になります。
また、白金を使ったものは当然高価になり、これも欠点になります。
温度センサー選定時のポイント
温度センサーを選定する際には、以下の要素を考慮する必要があります。センサーの選定は、正確な測定とシステムの信頼性に直結します。
ポイント | 説明 |
---|---|
測定範囲 | 対象の温度範囲に応じて適切なセンサーを選ぶ。 |
精度 | 必要な精度に応じたセンサーを選定。 |
応答速度 | 素早い温度変化に対応するかを確認。 |
耐環境 | 高温や低温、湿度、振動などの環境条件に耐えられるか。 |
コスト | センサーの価格とシステム全体のコストを考慮する。 |
また選定後、電気回路と組み合わせて実際に温度を測る際には、各種補正、校正が必須であることにも注意が必要です。
温度センサーの応用例
温度センサーは、さまざまな産業や日常生活に応用されています。以下はその一部です。
詳細 | |
---|---|
サーミスタ | 家電製品、自動車、医療など |
熱電対 | FA、自動車、金属製造、医療、航空宇宙など |
RTD | 科学研究、FA、医療 |
熱電対はタイプにもよりますが温度範囲が広いため、応用も広くなっています。高価なRTDは高精度用途に特化しています。
サーミスタは製品によって特性に差が見られ、互換性が低いことには注意が必要です。
まとめ
温度センサーは、温度の正確な測定を可能にし、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。この記事では、温度センサーの基本的な仕組みや種類、選定時のポイントについて詳しく解説しました。
選定にあたっては温度範囲やコストなどを考慮するための適切な知識が必要です。本記事ではそこまで触れていませんが、およその特徴を知ることが大きな一歩だと思います。
[1] 余談ですが、これと逆(電圧をかけて温度差を作る)の作用を利用したものが「ペルチェ素子」です。